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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1252号 決定

抗告人 深尾武政

右訴訟代理人弁護士 森本清一

相手方 村山喜八郎

右訴訟代理人弁護士 吉川彰伍

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

二  記録によれば、次の各事実を認めることができる。

1  相手方・抗告人間には、江戸川簡易裁判所昭和四五年(イ)第六二号和解事件(以下甲事件という。)につき昭和四五年八月三日に成立した和解調書が存在するところ、抗告人は同和解調書に基く強制執行を許さない旨の判決を求めて東京地方裁判所に請求異議の訴を提起し(昭和四八年(ワ)第七九六五号事件)、同裁判所において昭和四九年一〇月一日別紙和解条項のとおり記載ある本件和解調書が作成された。

2  甲事件和解調書の和解条項には、(一)当事者双方は、相手方所有の東京都江戸川区東小松川五丁目(以下右記載を省略し地番のみで表示する。)三七一番の二宅地三三〇・五七平方メートルにつき当事者間に借地関係の存在しないことを確認する。(二)抗告人は、右土地上に建設中の別紙目録記載第二建物を完成させ、かつ、完成と同時に相手方所有名義に保存登記手続をなし、相手方は抗告人に右建物を賃貸する。(三)右賃料は、抗告人が相手方から昭和四三年八月五日賃借した別紙目録記載第一建物の賃料と併せて一ヶ月四万円とし、抗告人はこれを相手方方に持参して支払う。(四)右各賃貸借期間は昭和四八年八月四日までとし、右期間満了の際は当事者合意の上更新することができる。(五)右賃貸借が終了したときは、抗告人は相手方に対し前記第一、第二建物から退去して明渡す旨の記載があり、その別紙目録の第一、第二建物の表示は、本件和解調書の別紙物件目録の(一)、(二)建物の表示にそれぞれ合致している。

3  抗告人は、前記請求異議訴訟事件の訴状において、右各建物につき賃借権を有し、昭和四八年八月四日現在その使用を継続している旨主張し、同訴訟事件においては、当事者双方、係争建物が右のとおり表示されることを前提として訴訟を追行し、本件和解調書作成に至った。

4  ところで、かねて抗告人が相手方から借受け占有していた土地は、三六九番の二、三七〇番及び三七一番であって、本件和解調書の別紙目録において各建物が所在するとされる三七一番の二なる土地は実在せず、また、本件和解調書別紙物件目録(一)、(二)の表示どおりの建物は存在せず、抗告人において建築し、使用占有していた建物は、原決定により更正された物件目録の表示に合致する。

三  以上の事実によれば、当事者双方の本件和解調書作成時における各条項の合意は、本件和解調書に表示された虚構の各建物についてなされたものではなく、かねて抗告人が相手方から借受け占有していた土地上に存し、抗告人において建築し、使用占有していた実在の建物、すなわち、原決定により更正された物件目録表示の各建物についてなされたものと解すべきであって、本件和解調書の別紙物件目録の記載には明らかな誤謬があり、これを原決定どおり更正して記載するのが和解成立時の当事者双方の意思に合致するものといわなければならない。

ところで、右誤謬は、相手方の申立にかかる甲事件和解調書の記載に由来するものであって、相手方の過失に基くものと推認されるけれども、その故をもって、抗告人の意に反し、相手方の申立に基く更正決定が許されないとする抗告人の主張は採用しえない。また、更正決定の申立権が一般に請求異議訴訟の原告にのみあって被告にはないとの主張も、更正決定は、要件の備わる以上職権でもなしうるのであることからも、到底採用しえない。

四  よって、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 倉田卓次 裁判官 井田友吉 高山晨)

〈以下省略〉

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